鳳来・鬼岩 事故による教訓
日本フリークライミング協会(JFA)や山渓CLIMBING-netでも報じられていますが、
2016年5月2日(月)、5日(木)に相次いで愛知県新城市鳳来、鬼岩にて二件の墜落に伴う頭部への怪我、
それぞれヘリコプター搬送という事故が起こりました。
私はその時期に10日間の鳳来ツアーに行っており、2日(月)の墜落をまのあたりにし、事後対応を行いました。
5日(木)はレストの為、事故後下山したクライマーから事故の話を聞き驚きました。。
二件の事故は誰にでも起こりうる可能性を感じますが、ヘルメットをしていることで怪我の程度は軽くなっていたことと想像できます。(手繰り落ちや、足の引っ掛け等は各々細心の注意を払い意識を高め、技術を高める事で防ぐしかないでしょう。もちろん、自分の状態、岩の状態の判断能力も大切ですね。)
ヘリ搬送時にやるせなかった事。
岩場中のクライマーが救助に当たり、担架にて安全な河原に移動できましたが、
119番通報ヘリコプター要請により30分程で鬼岩上空までヘリが飛来したものの、我々の地点を認識できなかったようで2度通過して遠のいてしまいました。
通過後30分ほど後に飛来して、何度も周囲を探索してやっと我々の場所を特定していただけました。
トータルで1時間ほどかかったようです。
3日後の搬送は、同じ場所であるものの、ヘリ等の救急隊の担当者が変わっていたようで、同じように場所の特定に時間が掛かり、挙句燃料切れの為給油に引き返したそうです。トータル3時間ほど経過したと伺いました。
結果的には2件の事故者共一刻を争う負傷ではなく、頭部の怪我の回復も一カ月経過しお二人とも良好なようで安心しました。一人の方は先日鬼岩まで快気祝いに元気なお姿を見せに来られていました。
しかし、一件目の事故直後は命の危険を感じていた僕らにとって、通過を繰り返すヘリが悲しくて、やるせない思いで一杯でした。(本当に1分でも1秒でも早く治療が必要だと思い願っていました。)
この出来事を踏まえて、鬼岩からハイカラ岩に向かう広場にあるハイキング看板表裏に、
座標を明示しました。(ホウヒハング側)
救急担架取り扱い説明書にも記入してあります。
北緯 35.0350
東経 137.6637
(共に小数点以下は10進法です。60進法ではありませんのでご注意ください)
これは鬼岩南東側基部の座標です。ヘリ搬送ピックアップポイントが傍の河原で行われる事が多いのでN氏にGPSにて測定していただきました。
今後、ヘリ要請する場合は北緯、東経座標を伝えて頂ければ幸いです。
連続ヘリ要請を受けて地元新城警察署が鬼岩周辺に2カ所、看板を設置してくださいました。
以下赤文字は看板に書かれている全文です。
鬼岩で2件の滑落事故発生!!
クライマーの方へお願い
一歩間違えれば命の危険も!!
ヘルメットの着用等
安全対策を徹底して下さい
愛知県新城警察署
看板には警告ではなく、
クライマーの方へのお願い・・・
と書かれています。
すごく暖かいメッセージだと思いました。
これは、事故を起こしたから岩場を閉鎖するというメッセージではなく、自分の命は自分で守ろうというメッセージだと感じています。(事故後地元駐在所の方が、怪我に懲りて鳳来に来ないなんて思わずに、元気になったら又来て下さい!という言葉もいただいたそうです。)
但し、私個人としては、今回の事故が、警告だと感じています。
事故後はヘリコプターだけでなく、麓から担架や応急セットを持った救急隊員が走って現場に向かい、乳岩駐車場には消防車、救急車、パトカー、対策本部ばりにテーブルを設置し地元の役員さん達も駆けつけ事故の無事を願い対応してくださっていました。数年前のハイカーの事故の時に遭遇した時も数十人態勢でした。
一たび山での事故が起きると、たくさんの人々が駆けつけてくれます。
鬼岩はアプローチに1時間を要し、救助の困難なエリアだという事を再認識しました。
看板には、
ヘルメット着用等の安全対策を徹底して下さい・・・
と、書かれていましたが、ヘルメットを被る事だけではいけないと指摘してくれたクライマーもいます。
一般の感覚では、なぜ危険行為であるクライミングでヘルメットを被らないのだろう?と思われる方も多いかもしれません。
私も登りにくい、カッコ悪いという思いで17年間フリークライミングではヘルメットを常用していませんでしたが、鬼岩という立地条件、観客席という危険性等の色んな要素から、人に迷惑を掛けないためにヘルメットを被ろうと思いました。
(私達は夫婦で鬼岩、特にメインウォールでの危険を再認識し、ヘルメットを着用するようになりました。その他にもヘルメットを着用しだした常連の方も2名おられます。)
ただ、ヘルメットを被るべきだと人に強制できない思いもあります。
フリークライミングはあらゆる物からの解放であり、危険に臨む時も、自己の体力、技術、精神力を鍛え上げる事で、無事に登攀を行う。その課題の危険性を超えた時に本当の解放を勝ちとる事ができると思うからです。
安全第一ならば、フリーソロは論外、クライミング自体成立しなくなってしまいそうです。
私はヘルメット着用の判断は個人に委ねられるべきだと思っています。
そして、大事なことはクライミングは常に危険行為であるという緊張感だと思っています。
基本的な安全技術、確認、声かけ、墜落態勢、確保技術
これらは常に意識して向上心を持って取り組まないと、危険はすぐに表面化してしまいます。
経験の少ない方へのアドバイスも優しく丁寧に相手の事を思って行わないと、すぐにケンカになってしまうのが日本の岩場でよく見られる光景です。逆切れされるからといって見てみぬフリのなんと多い事か!
(言葉選びの難しさを感じさせられますが、相手の為に丁寧にアドバイスしたいものです。そうする事で相手も理解してもらいやすく、いずれ岩場や自分の為になるとも思います。)
加えて、メインウォール観覧席での落石も頻発しているので観覧席にも座らないように意識を変えました。
万が一墜落者がグランドフォールした場合、観覧者に激突する恐れもあります。
仲間を応援している間や、オブザベーションに夢中になっている間に、他の課題に登攀中のクライマーが自分の真上に居ても気づいていない方が多数おられます。
先日はドントストップザカーニバル9pin目でのフォールでクライマーが壁に足をついた際、観覧席に落石、事なきを得ましたが直前まで観覧者が居た場所でした。
万が一当たると、簡単に死にます。
何より危険なのはメインウォールのビレイゾーンと通路が同じ場所である為、ビレイヤーとの会話が非常に多い事です。
ビレイヤーに話しかける無頓着な状態。(私も度々会話してしまいます。)
ビレイヤーが集中してクライマーのコールを聞こうとしても、聞き取れないほどの周囲でのおしゃべり。
意識あるクライマーも、過密時(特に朝のアップ時)は意識が飛んでしまう程の異常空間。
私は混雑時にメインウォールに入るのを辞めました。
私は鬼岩が大好きですが、集団心理により緊張感の無くなってしまう鬼岩を恐ろしく感じます。
是非、今一度クライミングの持つ危険性、スリル、そして緊張感、高揚感、素晴らしさを感じていただければ、より良い安全対策を行う事ができるのではないでしょうか。
みんなが意識を高く持てば、看板も必要の無い日が来ると思っています。